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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

て、はや一歩も移し得ず、肩をすぼめて地にひれふし、活たる心地更に無し。

三吉は左手を伸べて白き頸を掻掴み、「ええ、しぶとい、さあ立て、立たねえとこうするぞ。」と高く翳せる右手の拳を、暗中よりしっかと扼して、抑留めたる健腕あり。

拳は宙に立ちたるまま上へも下へも動かばこそ、三吉ぎょっとして、「や、汝は。」「天狗だ。」と呵々と笑い、「二才めばたばたすると二つに裂くぞ。」

かく謂うは誰ぞ、飲鬼窟の健児、老いたる屠犬児弥陀平なり。

駿河台の老婦人は、あわれ玉の輿に乗らせたまうべき御身分なるに、腕車に一人乗の軽々しさ、これを節倹ゆえと思うは非なり。

仰々しく馬車を走らして往来を妨げんは、老人の娑婆塞と後指指されんも憂たてし、髪切払いて仏に仕うる身の徒歩歩こそ相応けれ、つまりは腕車も不用なれど、家名に対してそうもならねば、止むことを得ず三吉の健脚を労するだに心苦しく思すとなむ。

読者御存じの都合ありて、間に合せの車夫に腕車を曳せ、今や鮫ヶ橋より帰館の途次、四ツ谷見附に出でて、お堀端を走ること十間ばかり、ふと顕れたる中年増、行違いざま、慌しく「あれ若い衆様、心棒が抜けてるよ。