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あかいステッキ

赤いステッキ

壺井 栄

「中央公論」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页

青空文庫

お母さんはうまく答えようとにこにこしながら、手紙をそこに置き、かたわらの編物を取りあげた。健の本読みも今日にはじまったものではないのに、克子が昨日梅の花をおぼえたばかりの知識で健をやりこめようとしていることもおもしろかった。

「のうお母さん、サクラと違うがのう」

克子の催促である。

「おいやなあ、克にゃむつかしいわいや、本にゃサクラと書いてあるし、そこにゃ梅が咲いとるし」

そこまで聞くと、克子はお母さんの言葉がおわらないうちに、すばやく、

「ほらみい、ウメじゃ」

と、高飛車に出た。健は向きなおってまた口をとがらし、少しどもりながら、

「ほたって、本にサクラいうて書いとんで」

克子の方へ本をさし示した。だが正当な健の言い分も克子には通らず、克子は朝日にまぶしそうに目をつぶって、

「ええい、ウメじゃい」ときめつける。

「サクラじゃい」といいかえす。

「ウ、メ」

「サ、ク、ラ!」

「ウメ、ウメ、ウメ、ウメエ!」

「サクラ、サクラ、サクラ――」

二人の声が渦を巻き、サクラの健はだんだん舌がもつれぎみになってきた。

「ウメじゃわい!」

克子はついに踏台をおりて健に立ちむかい、その肩先をなぐった。