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あかいステッキ

赤いステッキ

壺井 栄

「中央公論」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页

青空文庫

二

二

「サイタ、サイタ、サクラガサイタ」

まだ学校は来年からなのであるが、健はもう片カナが読めた。日向の暖かい縁側で小椅子に腰をかけ、踏台の机の上には一年生の読本が開かれている。その健の声をまぜかえすように、克子は自分の遊んでいた積木をおっぽりだして、

「サイタサイタ、ウメノハナガサイタ」

と、甲高な声を上げた。次の部屋の方につづく縁側で、お母さんは二人のそんな声を聞きながら手紙を読んでいた。健たちのお父さんから来たのであった。長いあいだお母さんや健たちを家に置いて、都会で仕事をさがしていたお父さんにようやくそれが見つかったのはついこのあいだのことであるが、そこは遠い越後の高田であった。雪が屋根よりも高く積まれた上を黒いマントを着た子供たちが杭から杭へ渡された縄につかまって歩いている絵はがきをもらったとき、その子供たちの頭が電信柱よりも上にあるといって健は目をまるくし、今に自分もそこを通れば天が近く見えるだろうといった。そんな小わけはわからないが、克子は克子でその雪に砂糖を入れて食べるのだと喜び、二人はその日だけでも、何べんもお父さんのいる高田へ行こうとせがんだりした。