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あかいステッキ
赤いステッキ
壺井 栄
「中央公論」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,482 字 · 23 页
健も負けてはいない。
「サクラじゃい!」と叩きかえす。
「ウメじゃ、ウメじゃ、ウメ、ウメ」
とうとう二人はつかみ合い、健は泣き声で、
「サクラ、サクラ――」
と、しどろもどろに克子の拳をさけながら叫ぶ。お母さんがとめるのも二人の耳には入らず、なぐり合いはやみそうもない。とうとう健は組みしかれて大声で泣きだした。克子は健に頬っぺたを引っつかまれていながら、ウメじゃ、ウメじゃい、と手をふり上げている。引き分けられてもなお、すさまじい顔つきで突っ立っている克子のふてぶてしさにお母さんは思わず笑いだした。
「そない喧嘩しよったら、もうお父さんの所いつれていきません、いうて手紙出そう」
お母さんにそういわれると健はなおも泣きだし、涙の中から悲しげな声で、
「もう喧嘩せん、もうごめん」とあやまったが、克子の方は目を三角にしてきろきろ動かしながら、まだ小声で、
「ウメじゃい、ウメじゃい」とつぶやいている。よくよくのことでなければ涙をこぼさない克子が、もう少し涙もろければ人にも愛されるのであろうが、その態度は誰の目にも片輪者の強情としてより映らないであろう。健のように泣いてあやまれば、親でさえもその方へ傾きかけるのを、お母さんは、克子のこれから生きていく上にどんなに損なまわりあわせになるだろうとくやしく思った。