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あかいへや
赤い部屋
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,114 字 · 36 页
「どれ、貸して御覧なさいよ。まあ、ほんものそっくりだわね」
彼女は、てれかくしの様に、その玩具だという六連発を手にとって、と見こうみしていたが、やがて、
「くやしいから、じゃ、あたしも射ってあげるわ」
いうかと思うと、彼女は左腕を曲げて、その上にピストルの筒口を置き、生意気な恰好でT氏の胸に狙いを定めた。
「君に射てるなら、射ってごらん」T氏はニヤニヤ笑いながら、からかう様に云った。
「うてなくってさ」
バン……前よりは一層鋭い銃声が部屋中に鳴り響いた。
「ウウウウ……」何とも云えぬ気味の悪い唸声がしたかと思うと、T氏がヌッと椅子から立上って、バッタリと床の上へ倒れた。そして、手足をバタバタやりながら、苦悶し始めた。
冗談か、冗談にしては余りにも真に迫ったもがき様ではないか。
私達は思わず彼のまわりへ走りよった。隣席にいた一人が、卓上の燭台をとって苦悶者の上にさしつけた。見ると、T氏は蒼白な顔を痙攣させて、丁度傷ついた蚯蚓が、クネクネはね廻る様な工合に、身体中の筋肉を伸ばしたり縮めたりしながら、夢中になってもがいていた。そしてだらしなくはだかったその胸の、黒く見える傷口からは彼が動く度に、タラリタラリとまっ紅な血が、白い皮膚を伝って流れていた。