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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

藤吉はあっけにとられた。

――あいつがいっしょに江戸へゆくって云うんだ、冗談じゃあねえ、と猪之はそわそわしながら云った。猫を番わせやあしめえし、そうおいそれと背負わされて堪るかってんだ、冗談じゃあねえ、まっぴら御免だ。

――おい、おちついてわけを話せ、いったいどういうことなんだ。

そんな暇はない、と猪之は答えた。わけは江戸へ帰ってから話す、おせいのやつ怒ってたから、ここへ押しかけて来るかもしれない。もしやって来たら追い返してくれ、ともかくおれは先に立たせてもらうから。そう云いながらさっと身支度をし、草鞋の緒もろくさましめずにとびだしていった。そして、藤吉が怒るにも怒れず、坐ったまま唸っていると、引返して来た猪之が戸口から覗き、べそをかくようなあいそ笑いをして、去った。

――あにき、江戸へ帰ったらおれを、気の済むまでぶん殴ってくれ。

おせいは来なかった。押しかけては来なかったが、職人が飲みにいったら、酔っぱらってさんざんに毒づいたそうである。あんなやつは男ではないから始まって、江戸の人間ぜんたいを泥まみれにし、粉ごなにし、「土足で踏みにじるようなあんばいだった」