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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

08 氷の下の芽

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,146 字 · 40 页

青空文庫

おえいはにっと笑い、ないしょ話をするように、去定に向かって囁いた、「先生、――あたいほんとは、ばかのまねをしているのよ」

「よし、それはもう三度も聞いた」

「ほんとよ、先生、ほんとだもの」とおえいはなお云った、「奉公していて、十二のときに、土蔵へ荷入れを手伝っていたら、梯子段から落ちて頭や背中を打ったの、そのときあたい、ばかになったふりをしようって思ったのよ、ほんと、ほんとはばかじゃないもの、あたいちゃんと赤ちゃんを育てられますからね」

「保本、――」と去定が振向いて云った、「控所に母親がいるから、二三日預かると云ってくれ、三日経ったらまた来るように、それまでに云い聞かせておくと云ってくれ」

登が控所へゆくと、おかねが向うからとんで来、登の言葉が終るのも待たずに、じりじりした口ぶりで不平を云った。

「どうしてそんな手間をかけるんでしょう」とおかねは厚い唇を尖らせた、「もともとばかで強情なんだから、云い聞かせたってむだなんですがね」

「本人が承知しないものはしようがない」と登は答えた、「ばかでもこけでも、子を持ちたいという女の気持に嘘はないからな」

「じゃあ、あのばか娘にばかを産ませようというんですか」