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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

01 狂女の話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页

青空文庫

大きな躯の、肥えた老人が五平。枯木のようにひょろ長い、無表情な若者が吉太郎、そのほか次作、久助、富五郎などという名を、登は覚えた。

「五平のぐあいはどうだ」と津川は五平に訊いた、「まだやれないか」

「そろそろというところでしょうな」と老人は肥えた二重顎を指で掻きながら、うっとりしたように眼を細めて、うなずいた、「さよう、まあそろそろというところでしょう」

「おれはこの月いっぱいでやめるんだが、それまでに味がみたいもんだな」

「さてね」と老人は慎重に云った、「たぶんよかろうとは思うが、さて、どんなものかね」

「そのうちに小屋へいってみるよ」

津川はそう云ってそこをはなれた。

「えびづる草の実で酒をつくっているんです」と歩きながら津川が云った、「色は黒いし舌ざわりもちょっと濃厚すぎるが、うまい酒です、赤髯が薬用につくらせるんですがね、そのうちにいちどためしてみましょう」

薬園を出ると、津川は北の病棟のほうへ向かった。

そちらには風よけのためだろうか、大きな椎や、みずならや、椿や、松や杉などの林があり、ふかい竹やぶなどもあったが、その竹やぶに囲まれるように、新らしく建てられたらしい、一と棟の家があった。