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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
01 狂女の話
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,384 字 · 41 页
状態になったとき、釵でぐっとやるんだそうです」
登は眉をひそめ、低い声でそっとつぶやいた、「男に裏切られたことが原因なんだな」
「赤髯のみたては違います」と津川がまた唇を舐めて云った、「一種の先天的な色情狂だというんです、狂気というよりも、むしろ狂的躰質だと赤髯は云っていますよ」
登の頭に殺人淫楽、という意味の言葉がうかんだ。長崎で勉強したときに、和蘭の医書でそういう症例をまなんだ。日本にも昔からあったといって、同じような例を幾つか指摘されたし、その筆記もとっておいた。
親のちからもあったろうが、娘は罪にならなかった。殺された相手は店の使用人であり、主人の娘の寝間へ忍びこんだうえ手ごめにしようとした。表面はそのとおりだし、死人に口なしでそのままにすんだ。しかし三人めの手代が命びろいをして、初めて事情がわかり、新出去定が呼ばれた。去定は座敷牢を造って檻禁しろと云った。さもなければ、必ず同じようなことがくり返し行われるだろう。ほかの狂気とちがって色情から起こるものであり、その他の点では常人と少しも変らないから、檻禁する以外にふせぎようはないと主張した。