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ちょうかきんむ
超過勤務
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页
と彼は赤くなってわめいた、「どうだ、この、なに、なんだと、老いぼれの腰抜けだと」
彼は立ちあがり、片手でデスクを殴りつけながら、「おれが老いぼれの腰抜けなら、きさまなんぞは、その、あの」彼はもっとも痛烈な悪罵を思いだそうとしてあせる、「おい、きさま、そのきさまなんぞはな、その、あれだ、その、――えいくそ、また切っちまやがった」
彼は受話器を叩きつけるように戻し、椅子を押しやって荒い呼吸をしながら、事務室の中をあるきまわる。いちど赤くなった顔色がしだいにさめ、灰色の古いなめし皮のようにひすばってきた。
「もうたくさんだ、考えなくちゃあならない、このへんでおれも考えてみなくちゃあならないぞ」と彼はあるきまわりながら云う、「――おれはこの店に三十九年勤めて来た、妻をもらい、五人の子を育てた、長男は来年で大学を出るし、下の四人もまあまあ人並だろう、女房は太りかえってすっかり尊大に構えている、それはそれでいい、それはそれでべつに文句はない、なあ、文句はないだろう、ない」と彼は自分にうなずく、「ところで、このおれはどうだ、おれはこれまでになにか得たか、なにか得た