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えちごのふゆ
越後の冬
小川 未明
「新小説」1910(明治43)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,272 字 · 15 页
その道は無論細い坂になっていて、杉の林を一つ通らなければならなかった。天気の好い時は何でもないが、風が吹いて、雨が降る時はこの下を通ると雫が滴れる、杉の枝がざわざわと動いて、襟元の寒いのを感じた。又雪が降ると杉の枝が撓んで、頭にかかるのが厭な感じであった。
家の前に立っていて、水車場の傍の往還に人の通りがあるかと眺め――若しや自分の母が、今にもあの道の上に出て来はせぬかと見ていたが、何時迄待ていてもそれらしい姿が見えなかった。
「お母、早く帰って来てくれやしゃればいいに……。」
と太吉は独り呟いた。而して眼前に悲しい影がかかったように、自と気持が滅入るのを感じた。尚も太吉は立って水車場の方を見ていると、裏の山から飛んで来た鳶が頭の上を過たが、軽く、急しげに翼を刻んで、低く渓に舞い下って水車場近くの枯木に止った。止ったかと思うと、又急しげに翼を刻んで、再び高く舞い上って、向うの松林のある山を越えて遠く、海の方へと飛んで行った。太吉はその鳶の行衛を見守っていた。
この時寒い風が吹いて来た。
振り向いて、裏の山を見ると、山は夕暮の空に接吻していた。山と空の境界に松だか、杉だか聳えていた――二本――三本ばかり――その樹の頂が、北の寒い風に動いていた。