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のうそん

農村

宮本 百合子

「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页

青空文庫

と祖母が笑う。

「ほんによ。この婆さまにゃあ、己が似合わしいと。ハイ、まず明けましてよいお年でござりやす。

二人して、いろいろの事をしゃべり合って居る。祖母は、だまって笑いながら聞いて居る。炉の前にチンと座った祖母の紋八二重の黒い被布姿がふだんより上品に見える。どうしても年よりは被布に限ると思って私は傍から見て居る。

おともさんは又、もうこの四日に掛ると云う春興行を見たがって居る。

「貧亡してても芝居は見たいものと見える。あんまり芝居ばっかり見たがって居るからあんな苦しい暮しをするのだて。

と祖母は、おともさんがもらった真綿の胴着を抱えて喜んで帰って行った後でしみじみと云って居た。年を取ってから貧しい生活をして居るものを祖母は一層同情するらしい。自分の身に引きくらべてでもあろう。

夕方近くなってから牛乳屋の人と、あの先に私に石を投げた甚助の家の男の子が母親と一緒に来た。

私はその児を見ると「オヤマア」と云った様な気になったし、その子も間が悪いと見えて母親の陰に顔を引っこめて仕舞う。紺の筒袖を着て、拇指の大抵出た足袋をはいて居た。母親は水をつけて梳いた櫛巻きにし、幾度か水をくぐった、それでも汚れてだけは居ない着物を哀れげに着て居る。