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ついおく

追憶

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页

青空文庫

此の次はどんな声がするだろうと思うと、急に心臓の鼓動は激しくなり喉元で息をしながら動きもしずに立ちすくんで居ると、急に明るい光りが薄い瞼を透して感じられたのでハット思って目をあくと、目の前にはいつもより大変大きく見えた母が立って居た。

あんまり意外だったので、声も出なかった私は、ボンヤリ立って居ると、

「まあお前は……

さあ彼方へ行って寝て居ましょう。

と云いながら母は元の部屋まで送って来て、パタパタとたたきつけると、

「今御用がすんだらすぐ来ますよ。

とすぐ又独りぼっち置いて行ってしまった。私は暫く眠られないで怖わい思いをした。

けれ共いつの間にか子供の正体ない眠に落ちて、翌朝一人でに目をさまして見ると、昨夜の事は嘘の様に静まり返った家中は水を打った様であった。

女中の話で昨夜の夜中に叔父と母や其の他の者は又病院に行って仕舞ったと云う事を知ったけれ共別段驚きも悲しみも私の心には起らなかった。

学校が無かったのか行かなかったのかして、弟とその時分しきりにして遊んで居た「お姫様と小馬」と云う私共丈の遊びをしたりして居ると多分昼頃だったと思う、母が眼を腫らして茶色の雨ゴートを着たなり一人でポツンと帰って来た。