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ついおく

追憶

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页

青空文庫

勿論それまでの成り行きは決してどの様な特別な形式も取られては居なかった。

彼は勧められて病院に入り養生をしたらしくあった。けれ共此頃、彼の心に湧いて居た事々が僅かながら解りかけて来た様な心持で種々考えて見ると、彼の死は非常に平穏な形式に依った一種の自滅ではなかったかと云う事を考えさせられる。

誰も私に云ったのでも注意したのでもない。

けれ共私はそう感じるのである。

彼が死んだ時専ら種々の手当てをして呉れて居た或る医師が、

「何と御止めしても御聞きなさらずに運動をなさったので……

と云った事を聞いて居る。

それは勿論医者として親族から受けなければならない不快な感情や責任を軽める逃口上であると云えない事はない。

云った当人は確かにその心持であったのだろう。

けれ共それが私に一つの疑問を持たせる緒口となったのである。

誰でも知って居る通り中耳炎の切開後などは殊に安静を保って居べき必要がある。

それをまだ疵がすっかり癒着もしない内からかなり遠い大学から林町までの徒歩を許すと云う事は考えられない事であり又我々なら許されたとて容易に決行する勇気は持たなかったに違いない。