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とじょうのはんにん

途上の犯人

浜尾 四郎

「犯罪科学」1930(昭和5)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,477 字 · 38 页

青空文庫

「僕はそんな事は有り得ないと思う」

「いや、あるかも知れない。少くも有り得る。少くもないとは云えない!」

彼は断固として云い切った。

ここに至って彼は今やなめくじ男ではない。蛇男でもない。猛虎である。彼は真正面から私に迫って来るのである。実際私もたじたじの形で今更、こんな論題を追った事を後悔した。

「しかし、有り得ると君が云った所で、又ないと僕が断言したところで、つまり水かけ論に終るのだからね。ともかく君の御忠告はあり難く拝聴しておく」

こう云って私は衝突をさけようとした。

相川俊夫はこの時、急に口をつぐんだ。そうして又例の妖気に満ちた顔で私をながめはじめたのである。

私は相手が黙ったので、彼が一寸まいって口をつぐんだと解したため、これ以上の論議を打ち切るために余計な事を云ってしまった。

「だから此の問題はこれ以上進んでも仕方がないのですよ。……一昨夜電車でお目にかかった時、今日のように名乗って下されば、うちででもお話が出来たのですが残念でしたね」

私は論議打ち切りの印のつもりでこう云いながら、傍の雑誌を手にとった。

しかるに、彼は又々執拗に迫って来た。