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とじょう
途上
谷崎 潤一郎
「改造」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页
その次に夫が択んだのは乗合自動車です。これはさっきもお話したように、細君が医者へ通うのを利用したので、彼はあらゆる機会を利用することを忘れませんでした。そこで自動車もまた不成功に終った時に、更に新しい機会を掴みました。彼にその機会を与えた者は医者だったのです。医者は細君の病後保養のために転地することをすすめたのです。何処か空気のいい処へ一と月ほど行っているように、―――そんな勧告があったので、夫は細君にこう云いました、『お前は始終患ってばかりいるのだから、一と月や二た月転地するよりもいっそ家中でもっと空気のいい処へ引越すことにしよう。そうかと云って、あまり遠くへ越す訳にもいかないから、大森辺へ家を持ったらどうだろう。彼処なら海も近いし、己が会社へ通うのにも都合がいいから』この意見に細君はすぐ賛成しました。あなたは御存知かどうか知りませんが、大森は大そう飲み水の悪い土地だそうですな、そうしてそのせいか伝染病が絶えないそうですな、―――殊にチブスが。―――つまりその男は災難の方が駄目だったので再び病気を狙い始めたのです。で、大森へ越してからは一層猛烈に生水や生物を細君に与えました。