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とんそう

遁走

葛西 善蔵

「新小説」1918(大正7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页

青空文庫

……彼らの美酒佳肴の華やかな宴席を想像しながら。が土井は間もなく引返してきた。「どうか許してくれたまえ」と、私は彼に嘆願した。しかし彼は聴かなかった。結局私は彼に引張られて、下宿を出た。

会場は山の手の賑やかな通りからちょっとはいった、かなりな建物の西洋料理屋だ。私たちがそこの角を曲ると、二階からパッとマグネシュウムの燃える音がした。「今泣いた子が笑った……」私はこうして会費も持たずに引張られてきた自分を極まり悪く思いながら、女中に導かれて土井の後から二階へあがった。そして電灯を消した暗い室に立った大勢の人たちの後ろに、隠れるように立った。マグネシュウムがまた二三度燃やされた。それから電灯がついて三十人に近い会衆は白布のテーブルを間にして、両側の椅子に席を取った。

主催笹川の左側には、出版屋から、特に今晩の会の光栄を添えるために出席を乞うたという老大家のH先生がいる。その隣りにはモデルの一人で発起人となった倉富。右側にはやはりモデルの一人で発起人の佐々木と土井。その向側にはおもに新聞雑誌社から職業的に出席したような人たちや、とにかくかなり広く文壇の批評家といった人々を網羅した観がある。