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とんそう

遁走

葛西 善蔵

「新小説」1918(大正7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页

青空文庫

二

のこととなると、私にはさっぱり見当がつかないのだ。こうした状態の自分に、いったい何ができるだろう? 彼が躍起となって鞭撻を加えれば加えるほど、私の心持はただただ萎縮を感じるのだ。彼は業を煮やし始めた。それでもまだ、彼が今度きゅうに、会のすんだ翌朝、郷里へ発たねばならぬという用意さえできなかったら、あるいはお互の間が救われたかもしれない。しかし彼の出発のことは、四五日前決ってしまった。そこで彼はまったく私に絶望して、愛想を尽かしてしまったのだ、そして「君のような心がけの人は、きっと今に世の中から手ひどいしっぺ返しを喰うぞ」と、言った。しっぺ返しとは、どんなことを意味するであろうか? まさか私を、会の案内状から削除するという意味ではあるまい……?

二

私たち二人は、よく行く、近くの釣堀の方へと歩いた。樹木の茂った丘の崖下の低地の池のまわりには、今日も常連らしい半纏着の男や、親方らしい年輩の男や、番頭らしい男やが五六人、釣竿を側にして板の台に坐って、浮木を眺めている。そしてたまに大きなのがかかると、いやこれはタマだとか、タマではあるまいとか、昨日俺の釣った奴だとか、違うとかいったようなことを言っては、他の連中までがわいわい騒いでいる。