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とんそう
遁走
葛西 善蔵
「新小説」1918(大正7)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,581 字 · 23 页
そしてそうした大きな鯉の場合は、家から出てきた髪をハイカラに結った若い細君の手で、掬い網のまま天秤にかけられて、すぐまた池の中へ放される。
私たちは池の手前岸にしゃがんで、そうした光景を眺めながら、会話を続けた。
「いったい君は、今度の金を返す意志なのか、意志でないのか、はっきりと言ってみたまえ」彼はこういった調子で、追求してくるのだ。
「そりゃ返す意志だよ。だから……」
「だから……どうしたと言うんかね? 君はその意志を、ちっとも表明するだけの行為に出ないじゃないか。いったい今度の金は、どうかして君の作家としての生活を成立させたいというつもりから立替えた金なんで、それを君が間違いなく返してくれると、この次ぎの場合にも、僕がしなくもまたきっと他の誰かがしてくれるだろう、そうなればあるいは君の作家生活もなりたつことになるかしれんというつもりから考えてしてやったことなんだが、そんなことが君という人にはまるで解らないんだからね、しようがないよ、そして何か言うと、書けないから書けない……だ。だから君はお殿様だよ」
彼はすべての芸術も、芸術家も、現代にあっては根本の経済という観念の自覚の上に立たない以上、亡びるという持論から、私に長い説法をした。