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すぎたはるのきおく

過ぎた春の記憶

小川 未明

「朱欒」1912(明治45)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,536 字 · 11 页

青空文庫

三

君、幽霊なんかこの世界にありはしないよ。」

「うん、ありはしない。学校の先生が幽霊などありはしないといったよ。」と一人が傍から賛成した。

皆んなは、これで黙ってしまった。それから、またわいわい言っていたが、

「隠れんぼうをしよう。」

と、一人が言った。

「しよう。」と、其処にいたものは、皆んな同意した。而して、また、石の転っている空地に輪を造って、りゃんけんぽと言って、拳に敗けたものは鬼になった。

その時、臆病の正一はこういった。

「君、隠れる場処をきめて置こうよ。」

すると、皆んなは、もう遅くて、暗くなったから、彼方の桑圃へは行かないことにしよう、この家敷の周囲だけにしようといった。

「じゃ、あの杉の木の森……。」と正一は言った。

「何、森がなくちゃ隠れる場処はありゃしないじゃないか。」

と、一人が打消した。

三

やはり正一は、鬼にならなかった。皆んなは、固って逃げて森のところまで来た。鬼は、やはり眼隠しをさせられて、空地の、石の転っている処に彼方向きになって立っていた。

皆んなは、杉の森のところまで来ると、

「オイ、固って隠れては駄目だ。直に分ってしまうから、皆んな分れて隠れようよ。