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かじょうのいしき

過剰の意識

中井 正一

「シナリオ」1951(昭和26)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,259 字 · 5 页

青空文庫

何年前であったか、親不知子不知のトンネルをでたころであった。前に座っていた胸を病んでいると思える青年が、突然

「ああ海はいい、海はいいなあ……」

といって、一直線にのびている黒い日本海の水平を、むさぼるように凝視しつついうのであった。そして前に座っている私をつかまえて、多くのことをいったが、

「単純な、静かな、この一直線はどうです好いですなあ。私は東京から体を悪くして故郷の山奥の温泉にいくんですが、東京にはこの単純な美しさがありません。男の子と女の子が、山の奥でただ愛しあうというような単純な美しさがありません。……」というような意味のことを口ばやにいった。そして、海を見ながら

「ああ海はいいですなあ。いいなあ。いいなあ」

と膝を軽くたたきながら、いくらいってもいいたりないようにいいつづけていた。

私はその後、リスキンとキャプラのコンビのものの基調に、かかる感じのもの「太平洋のまんなかの島に二人で住みたい」という底の恋人のセリフを見いだしたことがあったが、私が、このまる三年、東京に住みついて、このノスタルジャ、淡いユートピア気分がわかるような気がするのである。