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かさんかマンガンすいのゆめ
過酸化マンガン水の夢
谷崎 潤一郎
「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页
と、彼女と仲違いをしていたニコルが忽ち何処からか現われてミシェルに抱き着き接吻する。「心臓病だと云いながらしぶとい奴だった。案外骨を折らせやがった」とミシェルが云う。そこへかねてから不審に感じていた私立探偵の男が這入って来て二人を逮捕し、「十五年か二十年の刑を受ければ出られるだろう」と云って引き立てゝ行く。
クリスチナが悶絶し、ミシェルとニコルが抱擁するところでドンデン返しになるのであるが、観客はその数分前ぐらい迄はどう云う結末になるのかとワクワクさせられる。が、見終ってから考えると、此の映畫はあまりに観客のスリル本位に作られていて、多くの不自然があることに気がつく。何より校長と情婦とがそんなヤヤこしい手数のかゝる方法で細君を謀殺し、それが発覚しないで済むと思っていたのが可笑しい。それならいっそ最後まで発覚しなかったことにした方が、まだ芝居になりそうである。直ぐに露顕して捕えられてしまうのでは餘り馬鹿々々しい。探偵が校長と情婦の奸計を嗅ぎ付けるに至る径路もはっきりしない。妻は心臓病患者であったとしても、彼女をショック死させるために水槽に漬かって殺された真似をしたり、死んだ振りをして何時間もバスケットで揺られて行ったり、プールに投げ込まれたりして、それが首尾よく(此の場合のように)成功すればよいが、註文通り