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かさんかマンガンすいのゆめ

過酸化マンガン水の夢

谷崎 潤一郎

「中央公論 七十周年記念十一月特大号(第七十年第十一号)」1955(昭和30)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,458 字 · 25 页

青空文庫

こう云う時は睡眠剤を服して意識をぼんやりさせ不安を紛れさせるに如かずと、今夜もラボナ一錠とアダリン二錠を飲み漸次半醒半睡の境に入る。

予はこんな工合に眠っているのか覚めているのか自分でもよく分らない朦朧とした状態にあることを楽しむ癖がある。最初は半ば意識しながらさま/″\な幻想が泡のように結ぼれては消えるのを楽しんでいるうちに、いつしかそれが本当の夢につながって行く。あゝ、これから夢になるんだなと云う半意識状態のまゝで夢を見ている。フロイドの「夢判断」などにはどんな風に説明してあるか、又一般の人はどうであるか知らないが、予は或る程度までは自分で自分の夢を豫覚し、時には支配することさえも出来るような気がする。そう云う気がする時は実はその全体が夢なので、覚めて見れば夢の中で又夢を見ていたのである、と云う人もあろうけれども、予は一概にそうは思わない。………予は胃袋が充満して腹部がひどく壓迫されつゝあるのを感じ、彼方へ寝返り此方へ寝返りして睡眠剤が早く利いて来るようにと願いながら、昨夜の牡丹鱧のことを考えていた。鱧の真っ白な肉とその肉を包んでいた透明なぬる/\した半流動体。