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どうかんやま
道灌山
宮本 百合子
「婦人」1948(昭和23)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,015 字 · 16 页
道男という弟は、この鳩が入って来たばかりに西村道男となった。そして、中学三年の秋、チブスで死ぬとき、母に僕は、ほんとにお母さまの子だったの? ときいて、母に悔恨の涙をしぼらせた。姓がかわっていたばかりでなく、この下の弟は、全く母に似て、ぼーっと肥った大柄だった。わたしや上の弟が父ゆずりで小柄だったのにひきかえて――こういうことは、みんなずっとあとにおこったことがらだった。そのころはまだ田端の汽車や、牧田の牛や子供の生活をみたす豊富な単純さで、昼と夜とがすぎた。
道灌山へいっていい? と母にきいて、さておきまりの一隊が出発するようになった時分、わたしは、きっと母からだったのだろう。太田道灌の話をきいた。みの一つだになきぞ悲しきと云って、娘が笠の上に花の咲いた山吹の枝をのせて、鹿皮のむかばきをつけて床几にかけている太田道灌にさし出している絵も見た。この絵は、『少女画報』という雑誌にのっていたと思う。
太田道灌が、あっちからこっちへと武蔵野をみまわして、ここは都にするにいいところだと云った山が、道灌山だということだったが、わたしたちが行く道灌山で、見晴らしのきくのは田端側の崖上だけだった。