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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
溪流に沿った物凄い山道ではあったが、僕はこうして君に夜道の話をしてきかしてるくらいだから、そんなことには馴れていて平気だったし、それに月もやがて出る筈だった。
僕はすたすたと、前日の豪雨に洗われた山道を下っていった。途中で真暗になって一寸提灯をつけたが、やがて東の山の端に大きな月が出て来た。溪流の音が深い谷間に響き渡っている。暗い木影から出る毎に、薄靄の上に蒼白い月の光の流れてる谷間の景色が、眼の下にすぐ見渡される。そのあたりから冷々とした夜気が匐い上ってくる。九月末といえば山奥ではもう秋なんだ。秋の月夜の景色は実に凄いような美しさだった。
然し僕はその景色をゆっくり眺める隙はなかった。十時の列車に乗り後るれば、一晩後れることになるのだった。爪先下りの曲りくねった道を、出来るだけ足を早めて下りていった。所々に崖崩れがしていた。
そして凡そ半分くらい、温泉から二里半ばかり行った所に、一軒の掛茶屋があった。八時少し前の時刻だったが、山の中の八時と云えばもう真夜中も同然で、茶屋の婆さんは里へ下りたと見えてしんとしていて、閉め切った表戸に腰掛が一つ片寄せてあった。