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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

君は夜道をしたことがあるかね。……なに、都会の夜道なら少しくらいって、馬鹿なことを云っちゃいけない。街灯が至る所に明るくともっていて、寝静まってるとは云え人間の息吹きが空気に籠っていて、酔っ払いや泥坊や警官や犬や猫などがうろついてる、都会の街路を夜更けに歩いたからって、それで夜道をしたと云えるものかね。僕の云うのは、そんななまやさしいんじゃない。見渡す限り山や野や畠ばかりで、何里という間人家もなく、猫の子一匹いないという、しいんとした淋しい片田舎の夜道を、たった一人でとぼとぼ歩くことなんだ。都会にばかりいる君なんかには分るまいが、田舎の夜ほどしいんとしたものはない。全く物音一つしないんだ。その上、闇の夜ときたら、それこそ鼻をつままれても分らないくらい真暗だし、月の夜ときたら、眼の届く限り煌々と見渡せるし、また星の夜には、空の星々が無気味にぎらぎら輝いてるんだ。そして何より恐ろしいのは、形あるもの、見馴れたもの、凡て人間に親しみを持ってるものが、すっかり影をひそめてしまって、形のない見馴れない奇怪なものが、しいんとした中にそこらにうろつき廻ってるという、ぞっとするような感じなんだ。