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みちづれ

道連

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页

青空文庫

齷齪とした人事に濁り汚れた頭を、高山の霊気で洗い清めて見たら、或は自然と新たな心境が開けるかも知れない、とそう思って、二三の友人を誘ってみたが、誰も同行しそうにないので、それでは一人でせめて高山の麓へまでなり行こうと決心して、ただ一人でぶらりと出かけた。

僕は先ず北アルプスの或る山の麓まで行ってみた。そして、頂に雪が白く光ってる雄大な連峰を見上げただけで、もう晴れやかな緊張した気分になった。然し勇ましいいでたちをした登山者達の姿を見ると、何の用意もしていなかった僕は気後れがして、案内者と二人っきりで登山するのが、心細くなった。で登山の方は思い切って、そこの宿に二三日滞在して戻ってきた。

その滞在中のことなんだ。じっと山ばかり見てるのにも倦きてきて、僕は毎日その付近を歩き廻った。何しろ人里遠く離れた山奥の、登山客だけを相手のぽつりとした宿屋なものだから、少し歩いてもすぐに深山幽谷の中に出てしまうのだ。

所がある晩、月の光に浮かされて、だいぶ遠くまで溪流伝いに出て行って、帰りは道を少し山手の小道に取ったのが失策で、どこをどう間違ったものか、小高い草原に出てその先が分らなくなってしまった。