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みちづれ
道連
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,366 字 · 37 页
そればかりならまだいいが、急に霧がかけてきて、方向さえも分らなくなった。
山道に迷った者は、よく一つ所ばかりぐるぐる廻りするということを、僕は前に聞いたことがある。それで僕は先ず其処に屈み込んで、よく気を落付けてから、大体の見当を定めた。
薄い霧だったので、月の光が多少洩れ漉してるせいか、遠くは見えないが、近い所はぼーっとした明るみだった。遠くに溪流の音が聞えていた。それが右にも左にも聞えているので、どちらへ出てよいかが疑問だった。それからまた、宿屋のある辺を通り越して下手に出てるのか、まだ上手にうろついてるのかも、さっぱり分らなかった。
仕方がなかったら此処で霧の晴れ間を待とう、と僕は決心して、いつまでも屈み込んでいてやった。然しいつ晴れるやら分らない霧だったし、それに僕は襯衣の上に宿屋の浴衣を引っかけてるばかりなので、その夜霧が肌にしみつくほど寒い。それでも遠くへ迷い込むよりはましだと思ってじっと我慢していた。
その間の僕の気持ったらなかった。聞えるものは左右の溪流の音ばかりで、それが時折高低をなして、僕の捨鉢な瞑想を揺ってくる。僕はそれに凡てを任して、途切れ途切れの而も曽て考えたこともないような底深い思いに沈み込んでいた。