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ちがうへいはちろう

違う平八郎

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页

青空文庫

六

「どうした平八」

と笑いながら声をかけた。

「貴様、合戦のさ中に断りを云っていたそうではないか」

「はい、なにしろ」

平八郎は泣きそうな顔で、「その、先方が、どう断っても、徳川の平八郎と間違えますので、それで拙者にしましても、また先方にも迷惑であろうと」

「斬るか斬られるかという必至の場合に迷惑もくそもあるか」

「それは、考えてみれば御意の如く」

「まあ宜い、考えてみるに及ばぬぞ、貴様のいるお蔭で戦の凝がおちる。合戦が陽気になっていい、――初めから臆病は許してあるのだ、これからも精出して臆病を稼げ」

三度わっと笑が爆発した。

六

金崎、手筒を抜いた織田軍は、更に進んで朝倉義景の本城、一乗谷に迫ろうとした。――ところが其時、清洲から驚くべき報知がやって来たのである。――使者は三名、然も意外なことにはその中に男装の寧々姫がいた。

「馬鹿なことをする」

幕営へ使者を迎えた信長はお寧々の姿をみつけて眼を怒らせた。

「戦場は女の遊び場ではないぞ」

「お叱りは後に頂きまする」

お寧々は長い羇旅の後ともみえぬ冴え冴えとした眼に、強い意志の光を見せながら云った。

「上様の御運の興廃に係る大事なおしらせ、老臣共の諫を押切って使者に加わりました。