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ちがうへいはちろう
違う平八郎
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,142 字 · 27 页
五
「別に、決して、その密談などという」
「隠しても駄目だ」
信長の大きな眼は鋭く光っていたが、その唇は微笑を含んでいた。
「戦場では臆病なくせに、こんな方面は馬鹿に達者ではないか、うん?」
「それが、まるで違いまする、つまり」
「云訳は聞かぬ、奥庭で女子と密会するなどは固い法度だぞ。然しまあ宜い、その勇気があれば結構だ、近いうちに越前へ攻下る。其方には留守をさせようと思っていたが、その勇気に賞でて軍陣の供を許すぞ」
「――は、それは忝のうございます」
「なんだ、もう震えているのか」
信長は声高く笑いながら云った。
「そんなことでは迚も寧々を妻には出来ぬぞ、狙っている猛者が降るほどいる事を忘れるな」
五
永禄十三年四月(同月二十三日改元して元亀となる)、織田信長は自ら征馬を進めて越前に下り、朝倉義景の金崎、手筒の二城を取囲んだ。――この二城は要害堅固の地で、土地不案内の寄手は苦戦必至と思われたが、木下秀吉、明智光秀の両智謀を集めて奇策を建て、それが見事に功を収めたため両城僅に二日で陥落せしめた。
平八郎は信長の幕下にあって金崎城に掛っていた。
――今度こそはひとかどの手柄をたてるぞ、臆病者の汚名を雪いで、立派にお寧々様の出迎えを受けるのだ。