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いこん

遺恨

坂口 安吾

「娯楽世界 第二巻第五号」銀五書房、1948(昭和23)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,706 字 · 22 页

青空文庫

彼女らは額をあつめて話すかと思うと、のけぞって笑うのである。まったく、イスがうしろへヒックリかえりはしないかとハラハラする程豪放にのけぞり天井めがけて、ゲタゲタワハワハと爆笑をふきあげる。女が小平に殺される、よくもそんなことが有るものだ、と、先生は理解に苦しむのであった。

先生は、思いあきらめて、一杯だけで帰ろうかと思った。然し、一パイで帰るにしても、やっぱりいくらですか、と、いって、女給に呼びかけなければならない。それぐらいなら、もう一パイ、たべたい。一パイだけでは、食べた手ごたえが分らないのだ。

「モシ/\、モシ/\」

先生はむなしく呼んだ。それを数回くりかえした。先生は、自分が今とても悪事を働いているという罪の意識と争わなければならなかった。そのために、もはや、敢て呼びかける勇気を失うのであるが、さればと云って、彼女らのサザメキのとぎれ目がないのであるから、どうしても覚悟をかためて、やりとげなければならないのである。

「スミマセン」

先生は必死に叫んだ。三人の女給は一時に怒った顔をふりむけた。先生はそれをグッと受けとめた。眼をつぶるワケにも行かぬ。