轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

あすこは夏の月夜には、せせらぎの音が間近く聞えて、卯の花の白く仄くのも一段と風情を添える所じゃ。もっともこれはその方づれに、望む予の方が、無理かも知れぬ。ついてはその殊勝なり、風流なのが目出たいによって、今度ばかりはその方の罪も赦してつかわす事にしよう。」

こう仰有って若殿様は、いつものように晴々と御笑いになりながら、

「その代りその方も、折角これまで参ったものじゃ。序ながら予の文を、姫君のもとまで差上げてくれい。よいか。しかと申しつけたぞ。」

私はそのときの平太夫の顔くらい、世にも不思議なものを見た事はございません。あの意地の悪そうな、苦りきった面色が、泣くとも笑うともつかない気色を浮かべて、眼ばかりぎょろぎょろ忙しそうに、働かせて居るのでございます。するとその容子が、笑止ながら気の毒に思召されたのでございましょう。若殿様は御笑顔を御やめになると、縄尻を控えていた雑色に、

「これ、これ、永居は平太夫の迷惑じゃ。すぐさま縄目を許してつかわすがよい。」と、難有い御諚がございました。

それから間もなくの事でございます。一夜の内に腰さえ弓のように曲った平太夫は、若殿様の御文をつけた花橘の枝を肩にして、這々裏の御門から逃げ出して参りました。