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じゃしゅうもん

邪宗門

芥川 竜之介

「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页

青空文庫

」

私が不審そうにこう尋ねますと、私の甥はあたかも他聞を憚るように、梅の青葉の影がさして居る部屋の前後へ目をくばりながら、私の耳へ口を附けて、

「どうすると云うて、ほかに仕方のある筈がありません。夜更けにでも、そっと四条河原へ忍んで行って、あの沙門の息の根を止めてしまうばかりです。」

これにはさすがの私もしばらくの間は呆れ果てて、二の句をつぐ事さえ忘れて居りましたが、甥は若い者らしい、一図に思いつめた調子で、

「何、高があの通りの乞食法師です。たとい加勢の二三人はあろうとも、仕止めるのに造作はありますまい。」

「が、それはどうもちと無法なようじゃ。成程あの摩利信乃法師は邪宗門を拡めては歩いて居ようが、そのほかには何一つ罪らしい罪も犯して居らぬ。さればあの沙門を殺すのは、云わば無辜を殺すとでも申そう。――」

「いや、理窟はどうでもつくものです。それよりももしあの沙門が、例の天上皇帝の力か何か藉りて、殿様や姫君を呪うような事があったとして御覧なさい。叔父さん始め私まで、こうして禄を頂いている甲斐がないじゃありませんか。」

私の甥は顔を火照らせながら、どこまでもこう弁じつづけて、私などの申す事には、とんと耳を藉しそうな気色さえもございません。