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じゃしゅうもん
邪宗門
「東京日日新聞」1918(大正7)年10~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,184 字 · 79 页
二十九
それ以来私どもは、よるとさわると、額を鳩めて、摩利信乃法師と中御門の姫君とのいきさつを互に推量し合いながら、どうかしてあの天狗法師を遠ざけたいと、いろいろ評議を致しましたが、さて例の恐ろしい幻の事を思い出しますと、容易に名案も浮びません。もっとも甥の方は私より若いだけに、まだ執念深く初一念を捨てないで、場合によったら平太夫のしたように、辻冠者どもでも駆り集めたら、もう一度四条河原の小屋を劫そうくらいな考えがあるようでございました。所がその中に、思いもよらず、また私どもは摩利信乃法師の神変不思議な法力に、驚くような事が出来たのでございます。
それはもう秋風の立ち始めました頃、長尾の律師様が嵯峨に阿弥陀堂を御建てになって、その供養をなすった時の事でございます。その御堂も只今は焼けてございませんが、何しろ国々の良材を御集めになった上に、高名な匠たちばかり御召しになって、莫大な黄金も御かまいなく、御造りになったものでございますから、御規模こそさのみ大きくなくっても、その荘厳を極めて居りました事は、ほぼ御推察が参るでございましょう。