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とかいのゆうき
都会の幽気
豊島 与志雄
「サンデー毎日」1924(大正13)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页
変な奴だな、と私が思うと同時に、向うでも私の方に気付いたのか、ふらりと門口を離れて、私の方へ歩いてきた。そして一二分の後に、私はその男と擦れ違ったが……ぞっと身体中が寒くなった。不思議なことには、その男の顔付も服装も何一つ私の眼には留っていず、その足音一つ私の耳にはいっていないで、まるで風のような男だと、擦れ違う瞬間に気付いたので、すぐ振向いて眺めたが、その男の姿は何処にもなく、人影一つ見えない静かな通りが、午後の薄明るみを白々と湛えて、向うの角まで一目に見渡された。私は吃驚して、その気持がまだ静まらないままに足を早めて、下宿の玄関に飛び込むと、途端に、真正面の大時計が、一つぼーんと半時を打った。そのままで、女中一人出迎えず、いつものお上さんの顔も見えず、家の中は空家のようにがらんとしていた。変だなと思って佇んだ時、先刻の男の姿がいつのまにか、恐らく擦れ違った時からであろう、私にぴったりとくっついてるのが感じられた。私はぶるっと身震いをして、自分の室に駆け上った。
そのことが、昼間だけに一層私の気にかかった。昼間から彼奴が玄関まで飛び込んでくる以上は、夜になったらどんなことになるか分らないと、私はもうすっかり慴えきって、それからはなるべく自分の室に閉じ籠ることにした。