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とかいのゆうき

都会の幽気

豊島 与志雄

「サンデー毎日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,559 字 · 21 页

青空文庫

私は喫驚して歩き出した。すると今度は、私と同じように酔っ払って帰り後れた愚かな男の影が、私の身にぴったりとくっついてきた。

私はもう歩くことも立止ることも出来なくなった。同じ場所を同じ時刻に同じような姿をして、嘗て歩いたろう人影や嘗て佇んだろう人影が、何処からともなく飛び出してきて、私にぴったりくっつこうとする。ただ茫とした捉え難い影で、いずれも、同じようでありながら全然異っている。

そうして私は、下宿までの僅か四五町の裏通りの中に、一々数えきれないほどの人影を、というより寧ろ、人の気を見た。石塀の先端、差し出てる植込の枝下、垣根のほとり、門口の廂の下、電柱の立ってる三つ辻、溝の横の標石の上、往来に面してる窓際、其他凡そ人の身を置き得るあらゆる場所に、歯をくいしばった者、何かを見つめてる者、眉根をきっと寄せてる者、白い歯並をむき出して笑ってる者、髪を振乱してる者、其他嘗ていろんな人がしたろういろんな姿が、それと定かに表情は分らないが、ただ気配でそういう風に感ぜられる、茫とした幽気となって、宙に浮いたように佇んでいて、通りかかる私の方へ、ふらふらと寄って来て、私の身体へぴったりくっつこうとした。