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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

三

おれは同僚や上役にとりいろうとしたり、媚びへつらったことさえもない、と功兵衛はあるきながら思った。

「構わないほうがいい、したいようにさせておけ」と彼は呟いた、「相手はあのとおり乞食だし、じつはこれこれだと云いふらしても、信用する者はないだろう、仮に信用する者があり、身許を洗いだされるとすれば、罪に問われるとすれば、それはこのおれではなくあの女自身なのだから」

功兵衛は夕食のとき、妻のふじを叱った。菜の数が多かったし、汁の味が気にいらなかったからである。功刀は一汁一菜が家風であり、それはふじが嫁して来たはじめから、幾たびか繰返し云って聞かせたことだ。彼はそう小言を云いながら、ふっと自分が不愉快になり、泣きだしそうな顔をしている妻から逃げるように、荒あらしく立ちあがった。

三

「おどかしてはいけない」と云ってから、矢沢老人は急に大きく眼をみはった、「――まさか、本当のことじゃあないでしょうな」

「本当に戻って来ているんです」

矢沢老人は首をひねり、右手の指で顎をつまんだ、「私には信じられませんな」

功兵衛は仔細を語った。矢沢金右衛門は身じろぎもせずに聞いていた。