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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

「事実とすれば」老人は自分で自分に問いかけるように云った、「いったいどういうつもりでしょうかな」

「おそらく、生れた土地が恋しくなった、ということだと思いますが、それにしては乞食にまでおちぶれたのですから、人には気づかれないようにする筈ではないでしょうか」

「さよう、人並の女でしたらな」老人は途方にくれたような調子で云い、それから功兵衛の顔を眩しそうに見た、「――ひとつ私が、しらべてみましょうか」

功兵衛は首を振った、「いや、もう暫くようすをみることにします、お伺いしたのは、さくらになにか企みがあって戻った、と仮定した場合、またまた矢沢さんに御迷惑をかけたくありませんから、こんどは見て見ぬふりをしていて下さるように、ということを申上げたかったのです」

しかしそうはまいるまい、と矢沢老人は云い返したが、功兵衛はそれを受けつけず、いかなる事が起こっても、こんどだけは知らぬ顔をしていてくれるようにと、つよく主張して別れを告げた。

功兵衛は二十一歳のとき、斧島嘉助の娘さくらと結婚した。そのときの仲人は矢沢金右衛門、さくらは十八歳であった。斧島は三十石あまりの馬廻りであり、矢沢は郡奉行職付き記録方を勤めていた。