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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

「わたしはまた功刀さんが、もっとよくわたしの話を理解して下すったものと思っていました」

「それは思い違いです」功兵衛はゆっくり首を振った、「あなたが御用金をどう使われたか、私は知りもしないし知りたいとも思いません、その事情をどんなに詳しく話されたところで、私には関係もなし、どうする力も私にはないのです」

苅田はながい太息をついた。

「殿の御帰国は来年の三月、それまでは待ちましょう」功兵衛は静かに云った、「――では登城の刻限ですからこれで失礼します」

功兵衛は立ってその座敷から去った。

そのとき苅田壮平が、捨てられた仔犬が去ってゆく主人のうしろ姿を見るような眼で、じっとこちらを見あげていたのを、功兵衛は認めた。なさけないな、と彼は思った。自分の不始末をごまかそうとするときには、みんなあのような顔になるのだろうか。楯岡平助もあんな眼つきをしたのだろうか、と功兵衛は想像した。居間には妻のふじが待っていた。功刀家では、十二月にならなければ座敷には火鉢は入れない。苅田も寒そうであったが、妻のふじも寒さが身にしみるのだろう、唇が紫めいて見え、躯が小刻みにふるえていた。