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しゅうぶん

醜聞

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1964(昭和39)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,900 字 · 46 页

青空文庫

「着替えをするから吉川を呼んでくれ」と云って彼は妻を見た、「おまえはどうしてここにいるんだ」

「吉川さんが今朝」

「吉川だ」と彼はさえぎった、「彼は家扶、おまえは功刀の主婦だ、主従のけじめをはっきりさせないと、一家のきりもりはできないと云ってある筈だ」

ふじは眼を伏せ、頭を垂れた。功兵衛は少し声をやわらげて、吉川はどうかしたかときいた。吉川甚左衛門は急な腹痛で寝た、とふじは答えた。

「もう一つ云っておくが」と功兵衛は着替えをしながら云った、「客に菓子を出すときは私からそう云う、今朝の客にはそんな必要はなかったのだ、覚えておいてくれ」

妻は「はい」と答えた。

裏のほうに仔猫がいるらしい、私は猫や犬が嫌いだ。すぐにみつけてどこかへ捨てさせるように、そう命じて功兵衛は家を出た。嫁に来て二百日にもなるのに、まだ家風に慣れない。いつもおどおどして、こっちの顔色ばかりうかがっているようだ。あれで本当に二十三歳になるのだろうか、功兵衛はあるきながらそう思った。彼はいらいらしていた。そうしてまた、妻に対する苛立たしさが、じつは苅田の問題からはね返っていることも知っていた。