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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
どうしたのかとたずねると、亀崎の半兵衛が
「元旦には、松の枝が折れたのさえ忌嫌うというのに、このざまはいったいなんとしたものだ。国にさえ居れば、酒に酔い、餅に飽き、思うさま飲み食いして楽しむのに、こんな船に乗ったばかりに、浅間しい春を迎えねばならぬとは」
というと、帆係の為吉があとについて、
「伊豆の衆のいうとおり黄粉を※(「舌+低のつくり」、第3水準1-90-58)めて正月をするようでは、この先の運はもうきまった。こんな甲斐性のないやつでも、同じ村のものだと思うから、船頭だなどと立ててきたが、思えば馬鹿らしくてならぬ。下り船の乗りがけに、いやな気中がしたが、あれこそは、こんなやつといっしょに、南の海の果で藻屑になるというしらせだったのだろう」
と怒りつ泣きつする。重吉は笑って、
「泣くほどのことがどこにある。来年は米を食える国へ帰られるという縁起に、明日一日は豆をやめ、囲い米のうちから二升だけ粥にし、米ずくめで暮らさせるつもりなのを知らないのか」
為吉は、元旦には米を食べさせてもらえるなら言うことはないといい、それでみなも泣くのをやめた。
元旦は暗いうちに起きだし、羽織を着て表ノ間の座敷へ行く。