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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
二月十四日のことであった。
いつものように早く起きて苫の下へ入っていると、夜のひきあけ頃、二本帆柱におどろくような帆数を掛けた大船が一隻、三里ばかりの沖合を東北のほうへゆるやかに航行して行くのが見えた。
重吉は舳の麾をひき抜いて、うつつなく左右に大きく振りながら、
「その船、待て、助けてくれ」
と夢中になって叫んでいると、むこうの船の姿がかわって、舳がすこしずつこちらへ向いてくるように見えた。重吉は頼むはこの時と、舳の房飾の上にあがって、「おうい、おうい」と呼びかけた。
沖の大船は上手に間切りながら、督乗丸のまわりを三度ばかり廻り、五町ほどの沖で帆をおろして船をとめた。
見ていると、キビキビしたようすで端舟をくりだし、遠目にも逞しく見える筒袖姿の異人が六人ばかり乗組み、櫂の調子を揃えてこちらへ漕ぎ寄ってきた。重吉は、助かった助かったと、小躍りをしながら艫ノ間へ駆けこみ、
「音七ぬし、おうい半兵衛ぬし、助け船が来た。寝てはいられまい、早く起きて仕度をしないか」
と、うろたえまわると、二人は寝框の端まで這いだして、
「助け船だと。重吉ぬし、それは本当か、夢ではないのか」