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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
船頭がこういう扱いでは、下の二人はどうだろうと案じていると、半兵衛と音七が切穴から上ってきて、そなたはお船頭だから十分に食べたのだろうが、われわれは腹が減って、いまにも死ぬばかりだ。たとえ飢えて死ぬにしても、この世の思い出に思うさま腹をふくらしてから死にたい。飯焚場へ行って、お櫃の洗い流しでも貰ってきてくだされとねだりかけた。
昼はあたらなかったのかというと、そうではないので、
「食べるには食べたが、切餅一つに、茶が一杯。鼠の糞ほどで、どこへ入ったのやらわからない」と不服らしくいう。
そんならわしの食べたものとおなじだから、饑じくとも耐えるほかはないと、宥めると、とても耐えられぬ。なんぞ、盗んでなりと食べさせてくだされと、二人してうるさくせがみだした。かわいそうな、盗めるものなら盗んでも食わしてやりたいが、船の中の勝手もわからぬことで、どうすることもできなかった。
翌日、昼頃になって、エベットが重吉を迎いに来た。後について行くと、大きな部屋の真中に細長い飯台を据え、ギヤマンのコップやら匙やら賑かなほどに並べたて、小麦粉の切餅を大皿に山盛りに積みあげてある。