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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
あれがかねて話に聞いていた和蘭陀屋敷なのだろうが、早速のお取調べがあるようでは、重いことにちがいない。うっかりしたことは言えぬと、心をひき締めながらついて行く。
門の内は広々とした石畳みの庭で、そのまわりに縁日の屋台店のような体裁で、八百物や牛豚の切身を並べた店があるばかり。役所らしい構は見当らない。男はどれも煤黒い顔をして鍔の広い帽子をかぶり、女は裾の開いた袴のようなものを穿き、耳に小さな金輪をつけている。いくら和蘭陀屋敷の地内でも、日本の土地のうちだから、一人や二人は日本人がいてもよさそうに思うが、どこを見てもそれらしいものも居ない。ふしぎでならないが、馬鹿かと思われそうで、ここが長崎かとも聞けない。そのうちに片側の日除の下で宴会がはじまり、手踊のようなものがあって、それが終ると、また馬で帰ることになった。
船では二人が待ちかねていて、切穴から顔をだし、御奉行所の首尾はどうだったとたずねる。馬で行って、手踊を見てきたともいえず、
「今日は和蘭陀屋敷の恰好を見てきたばかりで、なんのこともなかった。役所のほうのことはエベットが引受けてやってくれたかもしれぬ。