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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
いちど悪因縁を背負いこむと、かならず後をひくものだから、二度と他人に迷惑をかけまいためだ。おぬしが本当の船頭なら、他人の迷惑を思い、あの時、われら二人だけをこの船に移し、自分は督乗丸に残らねばならぬところだ。それが船頭の義理というものだ」
半兵衛はうなずいて、
「音七ぬしの言うことも理窟がある。かねておれもそれを気にしていた。そなたはお船頭の扱いで、栄耀をしているから気がつかなかったろうが、この船の水夫どもは、わしらが乗ったのを縁起悪がり、ちょっと甲板に出れば、後から蹴る、棒切を投げつける、突っころばすやら水をかけるやら、この間などは、控綱に触ったというばかりに、猫吊しにして海へ投げそうにした。そういうわけだから、難船ともなれば、このままにはしておくまい。こうして一度は助けられたが、今夜あたりがこの世の終り。こんな東のはずれの、異国の海へ投げ込まれるくらいなら、伊豆の衆といっしょに死んでいればよかった」
音七は焦立って、
「半兵衛ぬし、その愁嘆面はいらぬことだ。いったいこの難船は、お船頭の横着から起ったことゆえ、重吉ぬしが死ねばとて、わしらが死なねばならぬわけはない。