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じゅうびょうしつにっし

重病室日誌

北条 民雄

「文學界」1937(昭和12)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页

青空文庫

これが人間といふものだ。さう思ふとなんとなく重苦しくなつたので独りで他の廊下を三号の方に巡つてぶらぶらと歩く。あの女の生命は、あの女個人の意思にかかはりないものか。ここで神を設定するのは易い。しかし神を設定したとて何等の人間的解決も与へられぬ。それよりも個の生きる心は金に普遍されると解するのが正しい。そして生きるといふことに対しては、あの女が生き蘇つた後に来るであらう如何なる苦痛も問題にならぬ。少くとも今あの入口で興奮してゐる連中にとつては問題にならぬ。とにかく生かせばよいのだ。それが人類の意志だからだ。

ところであの女が本当に死んでしまつたらどうだらう。人間の意志のみじめさだけになるぢやないか。生命の実権を握つてゐるのは誰だ。――神様ばかりが御存知よ、となるだけか。とにかくこれは解決がつかぬ。解つてゐるのは、生きてゐる限り苦痛は続き、しかも如何なる苦痛に対しても尚生きようとするのが人間だ。否、凡ての生物だといふ古くさいドイツの哲学者の言葉だけだ。こんなことはもう百年前に研究済みだ。重要なことは、それなら如何に生きるかといふ、態度だ。ここから無数に道が分岐してゐる。