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じゅうびょうしつにっし
重病室日誌
北条 民雄
「文學界」1937(昭和12)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页
つまり手術といふのは瞳孔を拡げて分泌物の掃除をするのだ。
手術はひどく痛かつたさうである。
×月×日。
腕の痛みは殆どとまり、朝からよい気持である。痛み始めてから今日でちやうど四十日になる。
隣りの男は手術後の経過良好とみえて、いくらか冗談を言ふやうになつた。
午後、久しぶりで図書館に出かけ新聞を見る。文芸欄は題目だけを眺めて片づけ、三面記事を見る。四十日の間新聞を見なかつたせゐであらう、数多くの血なまぐさい事件にぞつと心が寒くなる。活字が血の色に見える。心が緊張し、考へが後から後からと湧き出して来てならない。病室へ帰つてからも心が落ちつかず、ぐるぐると渡り廊下を散歩する。
三号病室の横まで来たとたん、はつとして立竦む。向うから片×さんの妻君がやつて来、それが何時の間にか盲目になつてゐるのだ。が、自分が驚いたのは彼女が盲ひてゐるからではなく、その瞬間まで社会の、いや三面記事の上に生きてゐた自分が、彼女を見たとたんに癩病院に復つたためだ。これが俺の生きてゐる世界であつた、といふ驚きだ。絶望的な気持になり、ひどく憂鬱になる。
二号病室の廊下まで来ると、ふとYさんが入室してゐるのに気づき、這入つて見舞ふ。