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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

面白いじゃないか。」

声に曇りはなかったけれど、その調子は変に空疎で気が籠っていなかった。と云って、人を馬鹿にしてるのでもないらしかった。昌作は何故ともなく気圧される気がして、ただじっと待っていた。禎輔の心が今そんな所にある筈ではなかった。九州の炭坑に行くか否かの昌作の返答こそ、今晩の問題であるべき筈だった。昌作はいつもの禎輔の調子からして、顔を見るなりすぐに問題へ触れられることと予期していた。所が何という他愛もない話だったろう! 或は高圧的に返答を引出すのを遠慮して、つまらないことに話を外らしながら、切り出されるのを待つつもりかも知れない、まさか、先日まであんなに急きこんでいたのを忘れたのではあるまい、などと昌作は考えてみた。けれど禎輔の話は、案外深みへはいっていった。

「いい天気じゃないか、この頃は。こんなだと実際に旅に出たくなるね。こないだ僕は久しぶりで郊外に出てみたよ。……然し、何と云ってももう秋の終りだね。いくら晴々とした日の光でも、云うに云われぬ悲愴な冷かさがある。

野ざらしを心に風のしむ身かな

この句は僕は口の中で繰返し繰返し歩いたものだ。