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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

禎輔ばかり口を利いて昌作が無言でいるというようなことは、昌作が少し使いすぎて余分な金を貰いに来るような時にでも――(そんな時禎輔は別に小言も云わずに金を出してやった)――今迄に余りないことだった。昌作は変に落着かない心地になった。然し達子は彼に長く猶予を与えなかった。いつもの率直さで尋ねかけた。

「佐伯さん、どうしたの、九州へ行くことにきめて? それとも行かないの?」

昌作は初めその問題を予期していたものの、一度禎輔からあらぬ方へ心を引張られた後なので、咄嗟に思うことが云えなかった。

「私いろいろ考えてみたけれど、やはり行った方がよくはなくって?」と達子は構わず云い進んだ。「炭坑と云えば一寸つらいようだけれど、何も坑の中へはいって仕事をするのじゃなし、普通の事務員だと云うから、却ってそんな所で働いた方が面白かないでしょうか。月給だって初めから百五十円貰えば、云い分ないでしょう。そんなよい条件はなかなか探したってあるものですか。坑主の時枝さんが、昔片山のお父さんに世話になったとかで、片山が無理に頼んだ上のことですから、きっと出来るだけの……破格の待遇に違いないわよ。