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やこ

野狐

田中 英光

「知識人」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页

青空文庫

そこに、私は自分の子供たちの無心にオドオドしている姿をみた。それで私の決心は再び変ったのである。私は子供たちの犠牲になろうと思い、再度、桂子と別れた。

そして妻子はすぐ上の姉の離れに住まわせ、私自身は近くに仕事部屋を借りて貰った。けれども、そうしていても始終、妻のふくれた顔が私のまぢかにある。また私と別れてヤケになっているという桂子が、社交喫茶に勤めだしたというのも気にかかる。といって、もう一度、桂子に顔を合せるのも苦しい。私は集金できる出版社をあてにして、黙って仕事部屋をとびだした。

催眠剤と酒の数日間が続く。眠ったのは、浅草のいまは廃業しているお好み焼屋とか、親しい編集者や作家の家。実に多くの人たちに言いようのない迷惑をかけた。淫猥で滅茶苦茶に勘定が高く、白痴のヤミ屋がゆくものと決めていた社交喫茶というものにも、桂子が勤めているときき、二、三度場所をかえ、顔を出してみた。

浅草のある社交喫茶に桂子に似ている女給がいたので、彼女を連れ、一度だけホテルにいった。けれども、私は、桂子の肉体と違う女と交合する欲望はない。丁度、桂子との同棲中、よくしていたように、彼女のスベスベした両足を、私の両足の上にのせて貰っただけで催眠剤を多量に呷って、死んだように眠った。